高齢者の多剤服用(ポリファーマシー)は、転倒・認知機能低下・入院リスクを高める深刻な問題です。厚生労働省の調査では、75歳以上の約25%が7種類以上の薬を服用しており、薬剤師の処方介入がこれまで以上に求められています。

本記事では、ポリファーマシーの定義・リスクから、実臨床で使えるスクリーニングツール・具体的な見直し手順まで、現役薬剤師の視点でわかりやすく解説します。

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ポリファーマシーとは?定義と問題点

定義

ポリファーマシーに世界共通の定義はありませんが、日本では「6種類以上の薬剤を服用している状態」を一つの目安として使うことが多く、厚生労働省も「多剤服用(ポリファーマシー)」として問題提起しています。

ただし、「種類数」だけが問題ではなく、「薬剤数にかかわらず、有害な転帰をもたらす不適切な多剤服用」こそが真の問題です。

ポリファーマシーが引き起こすリスク

リスク具体例主な原因薬
転倒・骨折ふらつき・起立性低血圧睡眠薬、降圧薬、α遮断薬
認知機能低下せん妄・記憶力低下抗コリン薬、ベンゾジアゼピン系
腎機能障害薬剤性腎障害NSAIDs、アミノグリコシド系
消化管出血胃潰瘍・消化管出血NSAIDs+抗凝固薬の併用
低血糖意識消失・転倒スルホニル尿素薬、インスリン
低ナトリウム血症倦怠感・嘔気・意識障害利尿薬、SSRI
⚠️ 転倒・認知機能低下・腎障害は「薬の副作用」と気づかれにくく、新たな薬が追加されてしまう「処方カスケード」につながります。薬剤師がいち早く察知することが重要です。

スクリーニングツール:Beers基準・STOPP/START基準

1. Beers基準(ビアーズ基準)

米国老年医学会(AGS)が作成した、高齢者への潜在的に不適切な処方(PIMs: Potentially Inappropriate Medications)のリスト。定期的に改訂されており、2023年版が最新です。

代表的なPIMsとして以下が挙げられます:

  • ベンゾジアゼピン系・Z薬(トリアゾラム、ニトラゼパム等):転倒・骨折リスク↑
  • 第一世代抗ヒスタミン薬(ジフェンヒドラミン等):抗コリン作用→せん妄
  • NSAIDs(ロキソプロフェン等):消化管出血・腎機能悪化
  • スライディングスケールのインスリン:低血糖リスク
  • スルホニル尿素薬(グリベンクラミド等):遷延性低血糖

2. STOPP/START基準(Ver.3, 2023)

欧州老年医学会(EUGMS)が開発したスクリーニングツール。STOPP(中止を検討すべき薬)START(開始を検討すべき薬)の2方向からアプローチします。

カテゴリ主な内容
STOPP(中止候補)βブロッカーの喘息・COPD患者への使用、ループ利尿薬の転倒リスク患者への継続、PPI長期投与の再評価、など
START(開始候補)骨粗鬆症患者へのビスホスホネート未使用、心不全患者へのACE阻害薬未使用、など
💡 Beers基準は北米基準のため日本にない薬が含まれる場合があります。日本では「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015(日本老年医学会)」も参照することをおすすめします。
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薬剤師による処方見直し手順(5ステップ)

Step 1:薬剤リストの整理

まず患者が服用しているすべての薬剤(処方薬・OTC・サプリメント)を網羅的にリストアップします。一包化・お薬手帳・持参薬照合を活用しましょう。

Step 2:腎機能・肝機能の確認

高齢者は腎機能が低下していることが多く、Ccr(クレアチニンクリアランス)に基づく用量調整が必要です。Cockcroft-Gault式でCcrを算出し、主要薬剤の添付文書用量と照合します。

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体重・血清Cr・年齢を入力するだけでCcr/eGFRを即算出。主要薬剤の腎機能別用量調整ガイドも内蔵。

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Step 3:PIMs(潜在的不適切処方)のスクリーニング

Beers基準またはSTOPP/START基準を用いて、各薬剤が高齢者に適切かどうかを確認します。特に以下の項目に注意します:

  • 抗コリン薬の重複(口渇・便秘・認知機能低下のリスク)
  • ベンゾジアゼピン系・Z薬の継続使用(転倒リスク)
  • NSAIDsの長期使用(特にCKD・心不全患者)
  • PPIの長期漫然投与(骨粗鬆症・マグネシウム低下)

Step 4:処方カスケードの確認

「副作用を治療するための薬が、さらなる副作用を引き起こす」処方カスケードを確認します。以下のような組み合わせが典型例です:

原因薬副作用追加された薬
NSAIDs血圧上昇降圧薬
降圧薬(Ca拮抗薬)浮腫利尿薬
利尿薬高尿酸血症痛風治療薬
抗パーキンソン薬悪心制吐薬(メトクロプラミド)
SSRI不眠睡眠薬

Step 5:医師・患者への提案

問題薬剤を特定したら、以下の優先度で介入を検討します:

  1. 即中止検討:重篤な副作用リスクがある薬剤(重度腎機能低下患者へのメトホルミン等)
  2. 段階的減量・中止:長期投与のベンゾジアゼピン、PPI等
  3. 代替薬の提案:抗コリン作用の少ない薬への切り替え
  4. 用量調整:腎機能に応じた用量の見直し
提案のコツ:「やめましょう」ではなく「〇〇の検査値から、△△の減量を検討してはいかがでしょうか」と根拠を示した提案が採用されやすいです。SOAPノートに記録することも重要です。
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よく見落とされる高齢者ハイリスク薬10選

#薬剤(種類)主なリスク対策
1ベンゾジアゼピン系(睡眠薬・抗不安薬)転倒・骨折・依存非薬物療法への切り替え検討
2抗コリン薬(膀胱薬・第一世代抗ヒスタミン)認知機能低下・せん妄ACBスコア確認・代替薬検討
3NSAIDs(ロキソプロフェン等)消化管出血・腎障害・血圧上昇アセトアミノフェン優先
4グリベンクラミド(SU薬)遷延性低血糖DPP-4阻害薬等へ変更検討
5メトホルミン(腎機能低下患者)乳酸アシドーシスeGFR<45で慎重、<30で禁忌
6PPI(長期投与)骨粗鬆症・マグネシウム低下・C.diff投与期間・適応の定期再評価
7α1遮断薬(前立腺肥大治療)起立性低血圧・転倒降圧薬との相互作用確認
8スピロノラクトン(腎機能低下患者)高カリウム血症定期的な電解質モニタリング
9ジゴキシン(高用量)中毒(悪心・不整脈)TDM実施・0.5ng/mL以下が目標
10抗血栓薬(DOACを含む)出血(特に消化管・頭蓋内)腎機能に応じた用量設定

実臨床での活用:業務に役立つWebツール

📊 薬物投与量計算ツール
体重・腎機能・年齢を入力して主要薬剤の用量を即算出。高齢者への投与量調整に活用できます。

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📝 SOAP記録支援ツール
処方介入の記録をSOAP形式で素早く作成。AI補助でアセスメント文章の作成もサポートします。

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まとめ

高齢者のポリファーマシー対策は、薬剤師の「処方監査力」が最大限に活きる場面です。以下の5ステップを日常業務に組み込むことで、患者アウトカムの改善につながります:

  1. 薬剤リストの網羅的な整理
  2. 腎機能・肝機能の確認と用量調整
  3. Beers基準・STOPP基準でのPIMsスクリーニング
  4. 処方カスケードの確認
  5. 根拠を示した医師への提案・記録

医療革命ツール集の各アプリを活用して、現場での業務効率化とともに患者安全の向上を目指しましょう。

📚 参考資料:厚生労働省「高齢者の医薬品適正使用の指針(総論編)」/日本老年医学会「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015」/American Geriatrics Society Beers Criteria 2023