なぜ腎機能で薬剤用量を調整するのか
多くの薬剤は腎臓から排泄されます。腎機能が低下すると薬剤の排泄が遅れ、血中濃度が想定より高くなります。この「蓄積」が副作用・中毒の原因となるため、腎機能に見合った用量に調整する必要があります。
代表例として、バンコマイシンは腎機能低下で血中濃度が蓄積して腎毒性・耳毒性のリスクが上がります。メトホルミンは腎機能低下で乳酸アシドーシスのリスクがあるため、eGFR 30未満では禁忌です。
Cockcroft-Gault式(CG式)の計算方法
添付文書・インタビューフォームに記載される用量調整基準のほとんどは、CG式で求めたCcr(クレアチニンクリアランス)を基準にしています。
※ 女性の場合は × 0.85
例:75歳・男性・体重60kg・Cre 1.5 mg/dLの場合
Ccr =(140−75)×60 ÷(72×1.5)= 65×60÷108 = 36.1 mL/min
体重の使い分け(最重要ポイント)
CG式に入れる「体重」は患者の状態によって使い分けが必要です。
理想体重(IBW)の計算
女性:IBW(kg)= 45.5 + 2.3 × (身長cm − 152.4)/ 2.54
補正体重(AdjBW)の計算
| 患者の状態 | CG式に使う体重 | 代表的な薬剤 |
|---|---|---|
| 標準体重(実測体重がIBWの30%以内) | 実測体重 | ほとんどの薬剤 |
| 肥満(実測体重 > IBWの130%) | 補正体重(AdjBW) | アミノグリコシド系、バンコマイシン |
| るい痩・低体重(実測体重 < IBW) | 実測体重 | ほぼすべての薬剤 |
肥満患者にそのまま実測体重を使うと、CG式でCcrが過大評価され、実際より高い用量が設定されてしまいます。アミノグリコシド系・バンコマイシンなど治療域の狭い薬剤では特に注意が必要です。
CKDステージとeGFR
eGFR(CKD-EPI式)はCKDのステージ分類と治療方針決定に使います。薬剤の用量調整に使う「Ccr(CG式)」とは別物であることを明確に区別してください。
| CKDステージ | eGFR(mL/min/1.73m²) | 臨床的意義 |
|---|---|---|
| G1 | ≥90 | 正常〜高値。蛋白尿などがあればCKD |
| G2 | 60〜89 | 軽度低下。定期的なモニタリング |
| G3a | 45〜59 | 軽度〜中等度低下。薬剤調整開始を検討 |
| G3b | 30〜44 | 中等度〜高度低下。多くの薬剤で減量が必要 |
| G4 | 15〜29 | 高度低下。大幅な用量調整と腎専門医への紹介 |
| G5 | <15 or 透析 | 末期腎不全。透析の有無で薬剤動態が大きく変わる |
主要薬剤の腎機能別用量調整
バンコマイシン
バンコマイシンは腎毒性があり、かつ腎排泄型のため、腎機能に応じた投与設計が特に重要です。添付文書には参考用量が記載されていますが、現在の実臨床ではAUC/MIC 400〜600を目標としたTDM(治療薬物モニタリング)ガイドされた投与設計(AUCモニタリング)が推奨されています(2020年ASHPガイドライン)。
- Ccr >90 mL/min:15〜20 mg/kg を8〜12時間ごと
- Ccr 50〜89:15〜20 mg/kg を12〜24時間ごと
- Ccr 10〜49:15〜20 mg/kg を24〜96時間ごと(TDM必須)
- 透析患者:透析後に補充投与、血中濃度に応じて設計
メロペネム
敗血症・重症感染症で広く使われるカルバペネム系。腎機能低下で排泄が遅延します。
- Ccr ≥50 mL/min:1g 8時間ごと(通常量)
- Ccr 26〜49:1g 12時間ごと
- Ccr 10〜25:500mg 12時間ごと
- Ccr <10:500mg 24時間ごと
シプロフロキサシン(経口)
- Ccr ≥30:200〜400mg を12時間ごと(通常量)
- Ccr <30:200〜400mg を24時間ごと(減量 or 延長)
メトホルミン
- eGFR ≥60:使用可
- eGFR 45〜59:減量して使用、モニタリング強化
- eGFR 30〜44:原則使用中止(乳酸アシドーシスリスク)
- eGFR <30:禁忌
透析患者への対応
血液透析(HD)または腹膜透析(PD)患者では、薬剤の透析除去性を考慮した投与タイミングと補充用量の検討が必要です。
- 透析で除去されやすい薬剤(例:バンコマイシン、ガバペンチン、リネゾリド):透析後に補充投与を検討
- 透析でほとんど除去されない薬剤(例:クリンダマイシン、アジスロマイシン):透析の影響を受けないため、通常の減量で対応
各薬剤の透析除去率はインタビューフォームまたは文献で確認することが重要です。
Ccr・eGFRを即計算 — 体重・性別・年齢・Creを入力するだけ。主要薬剤の腎機能別用量データベース付き
腎機能計算アプリを使う →まとめ
- 薬剤の用量調整にはCockcroft-Gault式のCcrを使う(eGFRではなく)
- 肥満患者では実測体重ではなく補正体重(AdjBW)を使う
- eGFRはCKDステージ分類と治療方針決定に使い、薬剤調整には使わない(原則)
- バンコマイシンはCcr計算に加えてTDMによるAUCモニタリングが現在の標準
- 透析患者は透析除去性を考慮した投与タイミングと補充設計が必要